海洋プラスチックの循環は、「人との信頼」から
前回は、海洋プラスチックを再生素材として社会へ戻すまでに、実際に取り組んだからこそ分かった「7つの壁」について書きました。
種類の違い、汚れや塩分、地域ごとに異なる回収の仕組み、必要な量、品質、コスト、そして継続すること。
しかし、こうした技術や仕組みの前に、もう一つ、とても大切なものがあります。
それが、「人との信頼」です。
海洋ごみは、私たちだけで回収することも、資源にすることもできません。
海岸で長く活動してきた人。
地域で暮らしている人。
行政。
リサイクル事業者。
素材や製品をつくる企業。
それぞれの人たちとの関係があって、初めて海洋プラスチックを次の工程へつなぐことができます。
私がそのことを最初に強く感じたのは、2019年の石垣島でした。
最初は、一人の参加者でした
2019年、石垣島の海岸で大量の海洋プラスチックを目にしたことをきっかけに、私は「回収されたものの中から、再生できるプラスチックを資源として社会へ戻せないだろうか」と考えるようになりました。
そこで出会ったのが、石垣島で長く海洋ごみの問題に向き合い、ビーチクリーンを続けてきた「海Loveネットワーク」の皆さんでした。
最初から、私たちの考えを歓迎してもらえたわけではありません。
「せっかく拾ったものを使って、また将来ごみになるものをつくることにならないか」
「地域の環境活動を、企業のビジネスに利用することにならないか」
そうした厳しい問いを受けました。
今振り返れば、当然の問いだったと思います。
長い時間をかけ、自分たちの手で地域の海を守ってきた人たちからすれば、外から来た人間が突然「その海洋ごみを資源として使いたい」と言っても、簡単に信頼できるはずがありません。
当時の私は、海Loveネットワークが主催するビーチクリーンに参加した、一人の参加者でした。
説明するだけでは、「信頼」は生まれない

2019年、初めて参加した石垣島・伊野田海岸でのビーチクリーン。
当時の私は、地域で長く活動を続けてきた皆さんが主催するイベントに参加した、一人の参加者でした。
当初は、自分たちが何を考え、何を目指しているのかを丁寧に説明すれば、理解してもらえるのではないかと思っていました。
しかし、実際にはそれだけでは足りませんでした。
何度も現地へ足を運び、海岸に入り、地域の皆さんと一緒に海洋ごみを拾いました。
どんなものが流れ着いているのか。
どれくらいの量があるのか。
誰が集まり、拾っているのか。
どのように分別され、その後どこへ運ばれていくのか。
そして、そこに関わる人たちが、
何を大切にし、どんな苦労を重ねながら、どんな想いで活動を続けてきたのか。
現場で一緒に手を動かすことで、初めて見えてくることがたくさんありました。
そして同時に、私たちが本当にこの問題に向き合おうとしているのかも、「言葉」ではなく「行動」を通じて見られていたのだと思います。
信頼は、説明して得るものではなく、「行動」を積み重ねる中で少しずつ生まれていく。
この経験から、そのことを学びました。
地域には、地域が積み重ねてきたものがある
海洋ごみの問題に向き合っていると、「もっと効率よく回収できないか」「もっと多く資源化できないか」と考えたくなります。
けれど、その前に理解しなければならないことがあります。
地域には、それまで活動してきた人たちの歴史があります。
行政との関係。
漁業者との関係。
ボランティア同士の関係。
そして、長い時間をかけてつくられてきた、その地域なりのやり方があります。
外から来た人間が、正しそうに見える仕組みをそのまま持ち込めばうまくいく、というものではありません。
まず現場へ行く。
自分の目で見る。
人の話を聞く。
そして、その地域に合う方法を一緒に考える。
今も私たちが大切にしている姿勢は、この頃の経験から少しずつ形になっていきました。
信頼が必要なのは、地域の人たちだけではない
海洋プラスチックを資源として社会へ戻そうとすると、地域で活動する方々だけでなく、行政やリサイクル事業者など、さまざまな立場の人たちと関わることになります。
そして、それぞれが抱えている不安や、確認しなければならないことは違います。
地域で活動している人たちからすれば、
「なぜ、この地域の海洋ごみを使いたいのか」
「地域の活動を企業のために利用することにならないか」
という疑問があります。
一方、行政には地域全体を考える立場があります。
誰が回収するのか。
どのように分別し、保管するのか。
その後、どこへ運ばれるのか。
資源化できないものは、どう処理されるのか。
地域ですでに運用されている仕組みとの整合性も考えなければなりません。
実際に私たちも、自治体の職員の方々と一緒に海岸へ入り、海洋ごみを拾い、現場を見たうえで、行政との協議を重ねてきました。

2025 年9月、小浜島出張時に撮影。
竹富町職員の皆さんと一緒に拾活。同じ現場に立ち、それぞれの課題を確認し、話し合いを重ねています。
机の上だけで仕組みを考えるのではなく、同じ現場を見ることから話を始める。
行政との関係でも、そのことはとても大切だと感じています。
リサイクルする側にも、理由がある
さらに、その先にはリサイクル事業者がいます。
海岸でプラスチックを回収できても、受け入れてくれる事業者がいなければ、資源として次へ進むことはできません。
第2回でも書いたように、海洋ごみには砂や異物、海水由来の塩分などが付着しています。
通常とは異なる原料を異なる原料を扱うことで、
機械や設備に影響が出ないか。
同じ設備で生産する他の製品に影響しないか。
安定して処理できるのか。
求められる品質まで再生できるのか。
事業者側にも当然、さまざまな懸念があります。

2025年12月、北九州市・西日本ペットボトルリサイクルにて撮影。
海洋由来のペットボトルや資源化の現場を実際に見ながら、担当者と再生に向けた課題を一つずつ確認してきました。
「環境に良いことだから、受け入れてください」
それだけでは、設備を持つ事業者にリスクを負ってもらうことはできません。
私たち自身が現場へ足を運び、原料を見てもらい、何ができるのか、どこに課題があるのかを一つずつ確認していく。
リサイクル事業者との関係でも、やはり信頼はその積み重ねから生まれます。
信頼とは、「同じ考えになること」ではない
海洋プラスチックの資源循環に関わる人たちは、それぞれ立場が違います。
地域で海を守ってきた人。
地域の仕組みを担う行政。
原料を受け入れ、設備を動かすリサイクル事業者。
素材を加工する人。
製品をつくり、販売する企業。
立場が違えば、見ているものも、背負っている責任も違います。
だから、最初から全員が同じ考えになる必要はないと思っています。
むしろ、それぞれの立場から出てくる疑問や懸念に耳を傾ける。
そのうえで、相手の立場や事情も踏まえながら、
どうすればお互いに無理なく前へ進めるのか、その着地点を一緒に考える。
そして、約束したことを一つずつ実行する。
その過程そのものが、資源循環をつくるための土台になる。
私たちはそう考えています。
地域の活動を「使う」のではなく、その先を一緒に考える
海洋プラスチックを資源として活用しようとすると、どうしても「回収されたものをどう使うか」という話になりがちです。
しかし、回収された海洋ごみだけを見ていてはいけないと思っています。
その向こうには、それを拾った人がいます。
拾っても拾っても、海洋ごみは漂着し続けます。
それでも、現場に立ち続けている人たちがいます。
疲れていても、せっかくの休みの日でも、海岸へ向かい、地域の海と向き合っている人たちがいます。
長年、地域の海を見守り続けてきた人。
海岸でごみを拾う人。
拾ったごみを運び、その後さらに分別する人。
分別は、拾う作業とはまた違う大変さがあります。
一度集めたものを、素材や状態ごとに見分け、仕分けていく。
拾って、運んで、その先にさらに続く作業です。
そして、分別されたものを運び、保管し、その後の処理や資源化につなげる役割を、行政が担うこともあります。
そうした一つひとつの積み重ねがあるからこそ、私たちは海洋プラスチックを素材として扱うことができます。
だからこそ、地域の活動を単に「原料を集めるための仕組み」として捉えるのではなく、
その地域の人たちが何を大切にしているのかを知り、そのうえで、どのような形なら無理なく続けていけるのかを一緒に考えていきたい。
私たち自身も、まだ十分にできているとは言えません。
それでも、そうした姿勢を持ち続けることが、地域との関係を築いていくうえで大切だと考えています。
信頼は、少しずつ積み重なっていく
最初は厳しい問いを投げかけられた関係も、現場へ足を運び、一緒に活動する時間を重ねる中で、少しずつ変わっていきました。
もちろん、一度会えば信頼関係ができるわけではありません。
一度製品をつくったから終わりでもありません。
何をするのか。
何のためにするのか。
回収されたものが、その後どこへ行くのか。
約束したことを一つずつ形にしながら、共に希望をもって語ったことを、少しずつ現実に近づけていく。
私たちは、まだその途中にいます。
そして、この経験は石垣島だけのものではありません。
その後も、北から南までさまざまな地域の海岸へ足を運び、地域の方々や行政、事業者の皆さんと、一つひとつ関係を築いてきました。
場所は違っても、最初に大切にしていることは変わりません。
現場に行き、人の話を聞き、一緒にやってみる。
その積み重ねの中で、少しずつ信頼が生まれてきたのだと思います。
場所は違っても、最初にすることは変わりません。
現場に行き、人の話を聞き、一緒にやってみる。
そこから始めることを大切にしています。
人と人をつなぐTHREADへ
OCEAN THREAD®の「THREAD」は、糸という意味です。
海岸で回収する人。
地域で活動する人。
地域の仕組みを担う行政。
素材へ戻す人。
製品をつくる企業。
そして、その製品を選び、使う人。
海洋プラスチックを素材として社会へ戻していくには、それぞれを一本の糸のようにつないでいく必要があります。
そして、その糸には、それぞれの地域や人、企業の物語も紡がれていきます。
資源循環というと、技術や設備、仕組みの話が中心になりがちです。
けれど、その仕組みを本当に動かし、続けていくのは人です。
だから私たちは、素材をつくることと同じくらい、人との関係を大切にしたいと考えています。
現場に行く。
自分の目で見る。
人の話を聞く。
そして、一緒にやってみる。
そこから生まれる信頼を、次の人へ、次の地域へ、次の製品へつなげていく。
私たちは、そのTHREADをこれからも紡いでいきたいと思っています。