海洋プラスチックを再生素材にするまでに分かった7つの壁
前回は私たちがなぜ海洋プラスチックを「ごみ」で終わらせず、「素材」として社会へ戻そうとしているのかを書きました。
では、海岸で回収したプラスチックを集めれば、そのまま再生素材になるのでしょうか。
実際には、そう簡単ではありませんでした。
日本各地の海岸へ足を運び、現地の人たちと一緒に海洋ごみを拾い、再生する人、製造する人、素材を使う企業の皆さんと話を重ねる中で、いくつもの壁が見えてきました。
今回は、実際に取り組んだからこそ分かったことを書いてみたいと思います。
1.海岸にあるプラスチックのすべてが、同じように再生できるわけではない
「プラスチック」と一言で言っても、その種類も形もさまざまです。
海岸を歩いていると、「こんなものまで海に流れ着くのか」と感じるほど、多様なプラスチックに出会います。
ペットボトル、ポリタンク、食品トレー、網状のトレー、発泡スチロール。
海で使われるものでは、ブイや浮き、漁具に使われるさまざまな部材、ルアーなどもあります。
さらに、ビーチサンダルや長靴など、私たちの生活の中で使われていたものも海岸に漂着しています。
見た目は同じ「プラスチック」でも、素材の種類が違えば、再生する方法も異なります。
そして現場では、そもそも目の前にあるものが何という種類のプラスチックなのか、簡単には判別できないこともあります。
「プラスチックだからリサイクルできる」ほど単純ではありません。
まず、何を資源として扱えるのかを見極めるところから始まります。

2019年10月沖縄県石垣市にて撮影。
海岸で回収された海洋ごみ。ペットボトルや発泡スチロール、容器、ロープなど、さまざまな種類のプラスチックが混在しています。
2.拾ったものを、そのまま工場へ持っていけるわけではない
海に漂着したものは、新品のプラスチックとはまったく状態が違います。
長期間、紫外線や海水にさらされ、劣化していることがほとんどです。
海藻や貝が付着していたり、重油などがこびりついていたり、砂や異物が入り込んでいることもあります。
また、海洋ごみには海水由来の塩分が付着しています。
そのため、機械の腐食や設備への影響を懸念し、再生工程で扱うことに慎重な事業者もいます。
漁網には海藻や魚の死骸だけでなく、釣り針などの仕掛けが絡み、作業をする人がけがをする危険もあります。
ペットボトルの中には、尿などの液体が残されていたり、内容物が腐敗し、膨張しているものもあります。
発泡スチロールも、外から見れば一つの素材に見えても、中に木材やおがくずなど別のものが詰められている場合があります。
つまり、拾うことと、再生できる状態にすることの間には、大きな距離があります。

2026年9月、長崎県壱岐市にて撮影。
海岸で回収されたペットボトル。
長期間海を漂流したものには、貝や重油などが付着していることもあります。
3.地域によって、回収から処分までの仕組みがまったく違う
海洋ごみの回収には、さまざまな人や組織が関わっています。
地域のボランティア団体、漁業関係者、自治体、県や国。
そのため、地域によって、
誰が回収するのか。
どこまで分別するのか。
どこに保管するのか。
誰が運ぶのか。
その仕組みが異なります。
さらに、最終的な処分方法も、焼却や埋立などさまざまです。
自治体内で処分される場合もあれば、自治体外へ運ばれて処分される場合もあります。
同じ方法をそのまま別の地域へ持っていけばよい、というものではありません。
現場には、それぞれの地域の事情があります。
だからこそ、それぞれの地域ごとに話を聞き、その土地に合った形を一緒に考えていく必要があります。
4.ある程度の「量」がなければ、素材にできない
海岸で10kg、20kgのプラスチックを回収することには、大きな意味があります。
しかし、それを工業的な再生素材として社会へ戻そうとすると、別の問題が出てきます。
工場の設備を動かすためには、一定量の原料が必要になるからです。
少量では、そもそも製造工程に乗せられない場合があります。
一つひとつの海岸で回収される量は小さくても、それをどうつなぎ、必要な量にしていくのか。
ここにも、海洋ごみを資源化する難しさがあります。
5.素材にできても、「使える品質」でなければ意味がない
再生素材として形になったとしても、そこで終わりではありません。
樹脂成形品として使うのか、繊維製品など別の用途に展開するのかによって、求められる品質や条件は変わります。
特に糸や生地などの繊維製品に展開する場合には、原料の品質や安定性がより厳しく求められるため、簡単ではありません。
企業が求めているのは、
「環境に良い素材」であることだけではなく、「通常の商品として使える素材」であること。
これは、実際に製品化に取り組む中で強く感じてきたことです。
また、私たちが大切にしていることの一つに、素材の安全性があります。
海洋プラスチックには、どこで作られ、どのように使われ、どのような経路で海へ流れ出たのか分からないものがほとんどです。それらは、海を漂流し、海岸にたどり着くまでに、紫外線や海水にさらされています。
OCEAN THREAD®では、再生した樹脂を第三者認証機関へ提出し、安全性に関する確認も行っています。
素材として社会へ戻す以上、確認できることを一つずつ確認していく。
その姿勢も大切にしています。

2024年9月、長崎県対馬市にて撮影。海岸で回収・選別されたペットボトルを集約し、再生に向けて状態を確認する様子。
6.「誰がその仕事とコストを担うのか」という問題がある
海洋プラスチックを製品までつなげるには、多くの人が関わります。
回収する人。
分別する人。
運ぶ人。
再生する人。
素材をつくる人。
製品をつくる企業。
そして、それぞれの工程には作業とコストがあります。
誰が回収するのか。
どこまで分別するのか。
保管は誰が担うのか。
運搬費は誰が負担するのか。
再生する側、製造する側にも不安があります。
通常とは異なる原料を扱うことで、機械に問題が起きないか。
安定した品質で製造できるのか。
それぞれの立場から見れば、当然の懸念です。
「環境に良いことだから、誰かが無償で負担し続ければいい」
それでは、長く続く仕組みにはなりません。
環境活動としての価値だけではなく、関わる人たちが無理なく続けられる経済的な仕組みも必要になります。
7.一度できることと、続けられることは違う
もしかすると、これが一番大きな壁かもしれません。
一度だけ製品をつくるのであれば、さまざまな人の協力によって実現できることがあります。
しかし、企業にとっては、環境に良いという理由だけで採用を続けることはできません。
売れれば続ける。売れなければ続けられない。
それは、事業として考えれば当然のことだと思います。
一方で、売れて継続することになれば、今度は別のことが問われます。
次も同じ品質で供給できるのか。
価格は大きく変わらないのか。
必要な数量を安定して用意できるのか。
さらに販売量が増えたときにも対応できるのか。
回収する側にも、再生する側にも、製造する側にも、継続できる体制が必要になります。
一度商品化できることと、継続して事業として成り立たせることは、まったく別の難しさがあります。
環境性だけでなく、品質、価格、安定供給まで含めて初めて、継続できる素材になる。
実際に取り組んでみて、私たちはそのことを強く感じています。
それでも、つなげていく。つづけていく。ひろげていく。
こうして書くと、海洋プラスチックの再生は難しいことばかりに見えるかもしれません。
実際、簡単ではありません。
それでも、それぞれの現場に足を運び、一つひとつの課題と向き合っていくと、少しずつ次の工程へつながっていきます。
回収する人がいる。
素材へ戻す人がいる。
製品をつくる人がいる。
そして、その製品を選び、使う人がいる。
私たちは、そのつながりを一本のTHREAD=糸として考えています。
そして、その糸には、それぞれの地域や人、企業の物語も紡がれていきます。
海洋プラスチックを拾って終わりにするのではなく、もう一度、社会で使われる素材へつなげていく。
一度きりで終わるのではなく、続いていく仕組みをつくり、つづけていく。
そして、その仕組みを少しずつ、地域や企業、人へとひろげていく。
私たちは、そのTHREADをこれからも紡いでいきたいと思っています。

2019年10月、沖縄県竹富町の西表島にて撮影。
地域の皆さんと一緒に海洋ごみを回収・分別。ここから少しずつ、つながりが広がっていきました。
次回は、こうした難しさの中で、地域で長く環境活動を続けてきた人たちと、どのように関係を築いてきたのかについて書きたいと思います。